それそれ

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「うっかりしたよ」
私が司書を務める暴力団事務所の図書室に忘れものを探しに来たのはおじさんとおばあさんのちょうどあいだくらいの人で、聞けば60年前の元組員だと言う。
「何をお忘れでしょうか」
その先輩はポロシャツの胸元におしりがあって、その谷間に拳銃とおはぎのちょうどあいだくらいの武器を差しこんでいて、私を威嚇と笑いの両面からくすぐってきた。
「忘れものが何かを忘れてしまったときに人は図書室を訪ねるものだろ」
困惑とかっこ良さのちょうどあいだに入りこむ先輩の言葉は、喜びと意味不明のあいだで揺れて、私の太ももにある司書心が忘れたものを見つけてあげたいとぷるぷるする。私も先輩と同じように胸元におしりがあって、だから心は太ももにある。食事をするのは足首で、歩くときはイソギンチャクみたいな髪をミミズのようにぜん動させる。私たちはきっと妖怪と極道のちょうどあいだの何か。
「忘れたのは仁義でしょうか」
公開:21/10/07 10:24

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