蓬莱町に事件です

アール・デコ調のソファで宗匠はゆっくりと葉巻をくゆらせていた。知らせを伝えにきた弟子がかしこまっている。
今朝のこと、蓬莱町に正体不明の虫の群れが飛んできたのだ。イナゴという人もありスズメバチという人もあり、よくわからない。市の保健所から検査部隊がやってきた。蓬莱町は宗匠の出身地。弟子が急いで情報を持ってきた。
宗匠はおもむろに口を開いた。
「混沌はいいねえ。蓬莱にも混沌が」
「はっ」と弟子は宗匠の意を汲んで出て行った。
弟子は蓬莱町に急いだ。検査部隊に宗匠の意を伝えるために。
検査部隊は七名で捕虫網と虫籠と放水器を用意している。何も手をつけず、見るからにおっとり刀である。頭上には虫の群れが黒い雲のように飛んでうなっている。
「混沌は混沌のままに」弟子が伝えると検査部隊長は納得したように首を縦にふる。捕虫網を脇に抱えて路面に水をまいて七名は帰って行った。
虫の雲はいつしか飛び散っていた。