短編小説の素

5
5

 作品のアイデアが浮かばないので、試しに「短編小説の素」を買ってみた。『簡単!お風呂に溶かすだけ』という説明文に従い湯船に入れてみると
「あなたが書きたいのは、ヒューマンドラマですか?それともサイエンスフィクション?」
 その言葉とともに浴槽の中から一人の美女が現れた。驚きのあまり、声が出ない僕に向かって彼女は
「分かってますよ。ずばりミステリーですね。すぐに密室と、バラバラの死体をご用意します」
 ようやく事態を飲み込めてきた僕は彼女に尋ねる。
「できればファンタジーがいいんですが」
「ごめんなさい、ファンタジーは専門外でして」
 気まずい沈黙が二人の間に流れる。「今回はご縁がなかったようで…」彼女はそう言い残すと、湯船の中にごぼごぼと潜ってしまった。
 しばらくして、赤らんだ顔が、ぷかっと浮き出てきて言う。
「あの…帰り方が分からないんですけど」

 こうしてラブロマンスが始まった。
ファンタジー
公開:21/10/03 12:10

はつみ

現実世界の2次創作
誰かに教えたくなるような物語を書きたいです

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容