人魚の前世

「ああ、人魚だね」
「人魚って？」
「前世さね。誰かに心を動かされたらお前は人魚姫の姿に戻っちまう。それを本能的に拒んでる」
何を言われるだろうかと、期待もせずに相談に来てみたらかなり風変わりな応えがきた。もし、この空の心の器を満たしてくれるものがあるとすれば、私は“姫”に戻ってしまうというわけだった。
「可笑しいね」
「わしの言っていることは本当だと直ぐに分かる。もう近づいて来ている」
「もう分かった。いくら？」
誰にも言えず、だからといってこんな怪しい占い師の元へ来るのではなかった。都会の明かりに包まれているが、薄汚れた街並みのせいでここは暗く感じる。
私は老婆にお金を払うと、直ぐ帰ろうと、足早に駅へ向かった。恐怖で息が切れる。
「大丈夫か？」
壁にもたれかかる私の腕を背後から誰かが掴んだ。触れたその箇所が本物の鱗のようになっている。頭を言葉が過った。
ーーもう近づいて来ている。