プリーズ・リシンク

16
8

頭ではわかっている、というのはやはり嘘で、私はまだ奇跡を信じているのだ。


「考え直してくれないか」
温度感のない虚ろな瞳。Gは意図せず潰してしまった小さな虫を見るような目で、私の顔をじっと見た。
見えないベルトコンベアーが、いくつかの区切られた時間を右から左へと運んでいった。
「何度も話したじゃない」
「わかってる。でももう一度話をしたいんだ」
沈黙。海の底で朽ち果てていく鯨の死骸。
彼女は口元にカップを運び、ずず、と音を立ててコーヒーを啜った。
私はウエイターを呼び止め、追加のウインナーコーヒーを注文した。
「もう戻れないのよ。私にはわかるの」
私は言葉を探した。だがいくら経っても何も出てこなかった。

やがてコーヒーが運ばれてきた。私は伸ばしかけた手を止めた。
液面に、小さなウインナーが浮いている。
「え」
「え?」
「ごゆっくりどう……、えぇ?」


奇跡が起ころうとしていた。
恋愛
公開:21/09/29 11:00
更新:21/09/29 09:46

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容