現し世の小咄

4
3

「…寝てばかりも辛いから。今日は愉快なのをお願い」
楓は苦しそうに上半身を起こした。
「じゃ楓様、こんな話は」
毎日伊織は楓の元を訪れ、話をするのが日課になっていた。
孤児の伊織を師匠…楓の父は親代わりとなり面倒を見てくれた。
伊織の3つ歳上の楓は昔から病弱で今はずっと床に伏している。
「…可笑しい。私もいつか外を出歩きたいわ」
「すぐ元気になるよ」伊織は胸を締め付けられた。

帰り道。
日毎に楓が弱っていくのが分かった。
最近は話の殆どが作り話になっていた。
でも話すのをやめたら楓が何処か遠くに行ってしまう気がした。
不意に肩がぶつかる。
「この糞がきゃぁ、偉そうに歩きやがって」
運悪くガラの悪い野武士だった。やり過ごそうと頭を下げ…
『こりゃとっておきの話になるぞ』
伊織は腰に刺した木刀に手を掛ける。
野武士がニヤけながら真剣に手を掛けた。

気が付くと伊織は霧煙る橋の袂に立っていた。
その他
公開:21/09/26 12:31

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容