常世の小咄

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楓は橋を渡りきると、橋の袂に見覚えのある横顔を見つける。
「伊織!」
少年は顔をあげ、バツが悪そうに笑う。
「へへ。歩ける程元気になったんですね。よかった」
腰にさす刀を自慢気に擦りながら
「元服は来年だけど、特別に授かったんです」と誇らしく言った。
楓は涙を抑えきれない。
「あんた、自分が何をしたか分かっているの?本当に馬鹿だよ」
「楓様…後生です、泣かないでください。俺こうして楓様を迎えられて嬉しいんです」
楓は、ああとため息と嗚咽の間を取るように哀しみを出しきった。
「そう、後生なんだよ。あんた自分がいる場所分かってないね」
「へへ。気がついたらここに立ってたんです。正直覚えてなくて」
「…まぁ終わったことは仕方ない。一緒に行こうか」
不意に組まれた腕に伊織は背筋を伸ばす。
「今日は愉快なのをお願いするわ」
「と、とっておきのがありますよ!」
霧煙る常世に寄り添う二人の笑い声が響く。
その他
公開:21/09/26 09:28
更新:21/09/26 12:35

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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