いす車

最初は冗談のつもりだった。
車いすに対抗していす車を作ろう！なんて、酒に酔った勢いで車からシートを取り外した。それだけだ。
これに食い付いたのがシニアの方々。運転に不安を感じ、運転席に座る事がなくなった老夫婦。旦那さんが運転席側に座り、奥さんが助手席側に座る。
「相方をこんな近くに感じたのはいつぶりだろう？」「昔、あそこにドライブ行ったわね」「あの場所は最高だった」
軽自動車サイズのいす車だと片寄せ合う距離で話が盛り上がる。
会話がなくなり、ふと横を見るとパートナーの安らかな寝顔。そう言えば昔、車中泊でこの寝顔を独り占めしたものだと笑みをこぼす。
次にハマったのが子育て中の親御さん。車の中だと眠る赤ちゃんの為、ゆりかご代わりにいす車を購入する。微振動と絶妙な雑音がぐずる赤ちゃんを眠りへと誘う。
さらにいす車はシートを平らにする事で緊急時担架の代わりになる。
いす車も大ヒット商品となった。