清水さんの群れ

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秋が深まるとシカンヌ砂漠から赤い恋砂が偏西風にのって私の暮らすテトロンポーンの街に吹いてくる。視界は薄く桃色に染まり木々は艶めき熟れた果実に鳥はためいきを漏らす。窓を開けたまま眠ってしまった私は肺に恋砂を吸ってしまい鎖骨を覆う肌や小指が赤く腫れ、鼻筋から出る甘い香りと揺れ潤む瞳が周囲の動植物に過剰な刺激を与えているとされて、鼻キャップにサングラス姿で町はずれにある団地の屋上でキャンプ生活をすることになった。
団地の向こうには果ての見えない草原が広がり、浮島のような土俵で相撲が行われている。私のスマホには動物や力士の群れを検知する相撲協会発行のアプリがあって、群れが近づくとその方角や頭数を推しの力士が声で報せてくれる。
十両の取組がはじまると今日も4階に住む清水さん一家がおかず用のシマウマを追って団地を飛び出していった。さてどうなるどうなる。隔離生活では住民たちの狩りと相撲だけが楽しみなの。
公開:21/09/27 14:21

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