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香ばしいソースとかやくの匂い。

露店が並ぶ夜の神社。行き交う人々。触れ合う袖。吊り下げられた電球のオレンジ色の光。

やっぱり夏は、こうでなくては。

「お腹へった〜」
幼い子供みたいな口調で、Fは言う。
僕は自他関係なく、ファッションにはあまりこだわりを持たない性質だが、彼女の浴衣姿は別格だ。隣を歩いていられることを誰かに自慢したくなる。

「あれ、食べる?」
斜めに四つの切れ目が入った、大きなフランクフルトが鉄網の上に並んでいる。じゅうじゅう音を立てて、体に悪そうな脂をぽたぽたと滴らせている。だが夏の夜の下では、腸詰め肉のそんな装いまでもが実に魅惑的だ。

「おじさん、これ二つ」
「あいよ、なんだカップルか、妬けるね」
「いいから美味しく焼いてよ」
「ふはは、こりゃ一本取られたね」

花火が上がる。彼女の髪を照らす。


僕は満足してVRゴーグルを外し、カップ焼きそばの続きを食べた。
青春
公開:21/09/24 11:20
更新:21/09/24 11:27

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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