中身

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ヒラヒラと風に吹かれながら歩く人がいた。近くで見ると身も骨もなく皮だけである。
「この辺りで中身を見かけませんでしたか?」
皮の人は伽藍堂な目で話しかけてきた。
「見かけませんでしたね」
「今朝目覚めたら中身がいなかったのです。『人間中身が大事教』の仕業かもしれない」
「それはご心配でしょう」
皮の人はペラペラ頷くと
「ところであなたそれ」
と私の腕を指した。
「皮が破れて中身が出てしまっている。いけませんね。早く塞がないと中身が出て…」
皮の人は口の端に垂れてきた涎を拭った。
「私はペコペコです」
ペコペコ?ペラペラでは?指摘する間もなく、皮の人は腕の破れ目から私の全身の皮を剥くとツルンと生牡蠣でも食べるように中身を飲み込んだ。
「ほら剥きたての中身は柔らかく美味なんだ。欲を言えばレモンをかけたい」

ところでずっと中身と信じていた私はただの皮だったようで、風にのって漂っています。今も。
その他
公開:21/09/20 22:23

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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