空鈴(くうりん)

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「チリーン、チリーン……」
これは見た目と音色が風鈴のようだけれど、空の鈴と書いて「くうりん」という。
空鈴を鳴らせば、自分が好きな空をこの部屋に呼ぶことができるんだ。
春の霞がかかった薄い空、夏の真っ青な空、秋の夕焼けに染まった赤い空、冬の雪が舞い降りる白い空ーー四季折々の空を楽しめる。
空鈴の音色が鳴り止むと元の部屋に戻るけれど、実際に空がやって来た証拠に、春なら桜の花びらが一片、夏ならセミの脱け殻が一つ、秋なら紅葉が一枚、冬なら牡丹雪が一粒――部屋に残っている。
空鈴の不思議なところはそれだけじゃない。時空を超えて過去の空も呼ぶことができるんだ。
例えば、生まれた日の空。懐かしい故郷の香りや、その当時の情景が映りこんでいたりする。赤ん坊の泣き声や家族の喜んでいる声も聞こえるかもしれない。
空鈴の音色が鳴り止むまで思い出に浸ったあと、空が残していくものは何なのか、君は知りたくないかい。
青春
公開:21/09/23 07:02
音色 風鈴 四季 時空

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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