満粒の夜

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ひとりきりの月見がさびしくて、おうちにある薬を全部混ぜて月見団子をつくったというおばあちゃんが「一緒に食べんね」と僕を揺り起こしたのは深夜のこと。
塗り薬や貼り薬も入れたというその団子からは甘い湯気があがり、僕がお茶をいれている間に食べたおばあちゃんの具合が悪くなって、救急車を呼んで病院に向かい胃を洗うことになった。
おばあちゃんといっても血縁はなく初対面の妖精だから、起こされたときは驚いて体のあちこちがポップコーンみたいにはじけたけれど、そのたよりない笑顔にほっとして少しだけ身を残すことができた。
「僕は驚いたり熱くなると体の粒がはじけちゃう体質だからこういうの困るよ」
胃洗浄を終えたおばあちゃんがごめんねと僕の手を握る。病室の窓からは夜空に浮かぶ満粒のとうもろこしが見える。
「さびしいのは僕も同じだよ」
握りあう指から全身がぷすぷすとはじけてやがて病室はポップコーンでいっぱいになった。
公開:21/09/22 15:22
更新:22/02/15 10:06

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