姫とナイト

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 バスに乗り込むとさりげなく車内に目を走らせた。気になるその男はドア側、前から二番目に座って目を閉じ、その時が来るのを待っている。
 男は僕が乗る停留所から数えて三つ目から乗ってくる老女に席を譲ると、斜め後ろに立って護衛するのように背筋を伸ばした。
 老女は当たり前のように座席に座る。
 二人の関係が知りたいような、知りたくないような気持ちで毎日二人の様子を眺めていた。
 ある日、バスに乗り込むと男が申し訳なさそうに優先席に座っていた。そこに、彼女が乗り込んで来て男を一瞥し、手すりに掴もうとしてよろけた。
「姫!」
 男が口にした言葉と老女の鋭い視線にぎくりとした。
 周りはイヤフォンをしていたり携帯電話を見ていたりで気づかなかったようだ。老女に目を戻すと優先席に澄ました顔で座っていた。
 男の体躯が小さく見えて、吹き出してしまうのを必死に堪える。周りが怪訝そうに僕を見ていた。
ファンタジー
公開:21/09/20 13:31
更新:21/09/20 15:53
バスの日

射谷 友里

射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。

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