枯れ井戸スコープ

0
1

 入るな危険、と書かれた柵の向こうに枯れ井戸があった。
 ある日、柵の隙間を抜けて一人の子供がやって来て、何だろうと井戸を塞ぐ板の上に上った。ひどく痩せていたので、上に乗っても大丈夫だった。
 そして、真ん中の小さな穴から中を覗いた。
 子供がそれを見るのは人生で二度目だった。一度は図工で万華鏡を作った時。
 無限に広がる綺羅綺羅と眩い世界。瞬きをすると井戸の中の景色も変わる。
 毎日、同じ服で子供はやって来た。
 井戸の中は相変わらず美しかった。
「あっちに行ってみたい」
 ふと子供がそう言った途端、音を立てて板が割れ、子供の体は井戸の奥へと吸い込まれていった。
 子供は消えたが、大人は「どうせ一人でどこかにいるだろう」と、誰も探さなかった。
 数年後、開けられた井戸は空っぽだった。

 子供は何処に行ったのか。
 そもそも、子供なんていたのか。

 誰も知らないし、興味も無かった。
ファンタジー
公開:21/09/20 12:03
更新:21/10/12 18:45

堀真潮

朗読依頼等は、お手数ですがこちらまでご連絡ください。
Twitter  @hori_mashio
tamanegitarou1539@gmail.com

 

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容