人魚の夢はもう見ない

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時々、どうして自分の足は分かれてしまったのかと疑問に思う。
足を絡ませ、ぴたりと1つにくっつけると、どうにもしっくりくるのだ。
そういうと昔、あの人に笑われたことがある。
「なら君は昔、人魚だったかもしれないね?」
まるで子どもの空想を優しく包み込むみたいに、ふわりと笑って私を覗き込んできたから、どうにもくすぐったくて”からかわないで”なんてわざとすました態度をとってしまった。

「あれだけがどうにも心残りね…」
あれから何年たっても、あの人との思い出は鮮明で、いつまでも鮮やかだ。
大切で、だからこそ忘れられないままここまで来てしまった。

「あんたが人魚だったらよかったのにね。そしたら私、あんたとずっと一緒にいられたもの」
片方づつ脱いだスニーカーを放り投げる。砂浜にばらばらに脱ぎ捨てられたそれらが涙で歪んで見えて、海の中みたいだと笑えてきた。
「私、やっぱり足は分かれてたほうがいいや」
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公開:21/09/20 11:20

mono

思いつくまま、気の向くまま。
自分の頭の中から文字がこぼれ落ちてしまわないように、キーボードを叩いて整理整頓するのです。

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