名もなき花の話

0
2

花街に暮らす私は一度も客の前に出た事がない。私は幼い頃、姐さんを暴漢から身を挺して守り、顔に大きな傷を負ってしまってね…
これでは客の前に出せない…傷物の私は店から追い出されて当然だと思っていたよ。
でも、私を残しておいてくれと姐さんが旦那様に直談判してくれた。姐さんが私を買ってくれたんだ。
そんな私に出来る事と言えば話を聞く事くらい…それで十分と姐さんは言ってくれた。
私は皆の相談役となった。秘密は絶対に漏らさない。
私の愛想のなさからか最初は皆、おっかなびっくり。怖がられる事が多いがいざ話してみると皆が私の虜になる。話し終わった後、憑き物が落ちたように晴れやかな顔で出て行く。
そんな私には源氏名がない。私は花魁になれなかったからね…
そもそも私には体もない。姐さんを守って死んでしまったからね…
皆は私を花の無い果、イチジクと呼ぶ。
「死人に口なし」から梔子と言われるよりはマシである。
公開:21/09/18 20:41

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容