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父は仕事中、必ず腕時計を身につける。
「腕時計は俺の体の一部だからな。ないとどうにも落ち着かないんだ」と笑う父。
その父が僕に腕時計をくれた。新品ではない。今まで自分がつけていたものを渡してきた。
確かにいい時計とは思うがくれるのなら新品の方が良かった…ため息を吐き、貰った腕時計を巻くと仕事を始める。
仕事が始まると父と息子ではない。親方と弟子だ。親方の下につき、仕事を覚える。
仕事は教えて貰うものじゃない。見て覚えるものだと言われた。だがそれにも限界がある。
どうすれば親方のように上手く出来るのだろう?僕と何が違うのだろう?
迷い、止まりそうになる手。
その手が勝手に動いた。まるで自分の腕じゃないみたいだ。
腕時計をしている方の手がまるで親方の腕に変わったように感じた。
そうか!この感覚か!その感覚を体に沁み込ませる。

仕事終わり、父が僕に聞いて来た。
「どうだ?俺の体の使い心地は?」
ファンタジー
公開:21/09/16 20:39

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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