赤なずむ花

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夜明け間近の鳥海山から依頼を受けて私は山すその赤い曼珠沙華を一本一本引き抜いてゆく。林道や森や湖のほとり。きっとお山さまは視界に入る赤がつらいのだろう。引き抜いた花の花粉は私が余さず吸って茎は陽が出る前に土中に横たえる。摘んだ花を猫車に山と積んで夫が眠る巣穴に戻り赤なずむ花をくつくつと煮る。煮汁には義母の肌から紡いだ白糸を彼岸までの通行手形に浸し入れて煮汁が冷めたら庄内熊野に流すだけ。夫はもうお山さまになっただろうか。臨終のあとも伸びる髭は曼珠沙華と何が違うの。悲しみは枯節を削るように麓の土や煮汁の川に降り落ちて遊佐の町を日本海へと流れゆく。私は夫の背に血がたまらぬように体位を変える。枕をあてる。右に向けると鳥海山、左に向けると花を煮る私の姿が見えるはず。あのね、私の背すじには庄内熊野が流れているの。赤く染まる曼珠沙華はあなたの指が触れた場所。思い出は今も赤く眩しくて私は今夜も花を摘む。
公開:21/09/17 20:28

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