『価値の源泉』

4
2

とある富豪が個人で美術館を建てた。
ガラス張りの洒落たモダニズム建築で
自身が目利きした近代アート作品を並べた。
観覧無料とあり開放感のある正面玄関エントランスは常に人が絶えなかった。
入館した客達は洗練された空間で回廊を一周し飾られた作品を鑑賞する。抽象的な作品が大半を占めた。
「すばらしい…ね」
「何かが違うのは分かるよ」
「何かこう、うん。すごいよ」

もう一つ入口がある。
美術館からほど近い管理事務所に入る高級車。
受付を済ますとゲートが開き直結の地下道を進んだ。
富豪自ら親交のあるセレブ夫妻を出迎えた。
3人は回廊の内側からマジックミラー越しに本当の作品を鑑賞するのだ。
「彼らが観ている作品は?」
「適当に集めたガラクタです」
「まぁ、どういうこと?」
「無価値な物を観て、さも価値があると感じとっている彼ら自身がアートなのです」
「…なるほど」夫妻は作品タイトルに目を落とす。
SF
公開:21/06/03 06:00
更新:21/06/03 07:09

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容