話の種

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「話の種をどうぞ」
帰り際、おしゃべりがはずんだ友人から花の種のようなものを渡された。
帰宅後、早速もらった種を庭に蒔いてみた。
何の変化もなく数日が経ち、件の友人が自宅にやって来た。
「夫が亡くなり、独り暮らしだとなかなか話す機会がなくて、訪ねてきてくれてうれしいわ」
「ところで、渡したあの種はどうなった?」
「庭に蒔いてみたんだけれど、水をやってもまったく変化がないのよ」
「案の定そういうことだったのね。今日は思いっきり話しましょう」
友人とのおしゃべりで会話に花が咲いた。
その翌日、庭には百花繚乱、美しい花が咲き乱れていた。
友人が私のことを案じて、話の種を渡してくれたことに気づいた。
それからは自宅にいろんな友人を呼んで話すようになり、話の内容によって多種多様な花が庭に咲くようになった。
花が枯れると実がなり、種ができた。その種を訪れた友人におすそ分けする。
「話の種をどうぞ」と。
その他
公開:21/06/05 07:03
話の種 おしゃべり 友人 会話に花が咲く 百花繚乱

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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