最高の持ち帰り

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通り雨で駆け込んだ定食屋に、『お持ち帰り専門』の看板を見て、時流だなと思った。
「いらっしゃい。うちは最高のお持ち帰りを提供しますよ」
「急な雨で身体が冷えてしまった。温まるものを見つくろってくれ」
晩酌のつまみを詰めてもらう間に雨がやんだ。ほかほかの買い物袋を提げて店を出る。
見事な虹の橋の下、花盛りの紫陽花を眺めながら商店街を歩いていると、福引セールの呼び込みが聞こえた。総菜のパックに券が挟んであったので引いてみる。なんと、一等の温泉旅行が当たった。
嬉しいが、使い道がないな。苦笑いで帰宅したアパートの玄関に、懐かしい顔が待っていた。
「お帰りなさい、あなた」
単身赴任したきり、久しく会えずにいた妻だった。

その日は妻の手料理を肴に、夫婦水入らずの晩酌となった。
専門店の総菜は、結局味も見ぬまま冷蔵庫へ。今度二人で温泉に行こうか。目を見交わして笑い合う今の時間が、私の最高だと思った。
その他
公開:21/06/01 12:26
月の音色 『持ち帰り専門店』 記が向いたので、記念応募(笑)

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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