電柱の観察

12
7

電柱が芽を出した。家の垣根を曲がったところだ。
灰色の棒が20センチほど、垣根の陰に生えている。
2日たって見ると腰の高さほどになっていた。てっぺんから短い電線が宙をさまようように伸びて、一部は電柱を伝って地中に潜っている。
柱はまだ細くて華奢だ。表面がざらりと土っぽい。地中の砕けた小石や貝殻の欠片がたくさん混じっている。
大雨が降った翌朝、電柱は自分の背丈をこえていた。
柱が一回りも、二回りも太い。表面は、頑丈なコンクリートに覆われ小石が目立たなくなっている。
生き物の神経や血管は体内を通っているけど、地上に出ている電柱は、雨風に耐えうる外見になって街に溶け込む。
さらに2日後、いつも見る電柱の姿になっていた。電線が他の電柱につながり、空に亀裂を入れている。

電柱の群れは、寿命が来ると電線に一斉に花が咲くらしい。
そういえば竹の花も見たことがない。無表情にそびえる電柱を見てそう思った。
ファンタジー
公開:21/05/29 21:07
電柱

字数を削るから、あえて残した情報から豊かに広がる世界がある気がします。
小さな話を読んでいると、日常に埋もれている何かを、ひとつ取り上げて見てる気分になります。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容