脱げない理想

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ユーモア色のパーカー
おおらか素材のカーディガン
笑顔ラインのジャケット
器用な風合いのカットソー
田舎に帰る時も、仕事の時も、恋人に会う時も。
いつも僕は、理想を重ね着する。
こんな自分では駄目だと焦るたび。自分にはおこがましいと申し訳なくなるたび。
肩の重さに比例して、理想の厚みが増してゆく。

「素敵なジャケットね。あなたらしいわ」
恋人のいつもの声に安堵する。
だけれど。目の前にいる恋人の表情も仕草も、僕には見えない。視界は、デニッシュのように厚みを増した理想によって遮られている。
『君にとっての僕への理想を崩さなくってよかった。』
安堵しているのに、痛みがバターのように層へ溶けた。


君は、知らないだろう。
ほんとうの僕が、真面目な仕立てのシャツが似合うことも。
『理想を脱いで本来の僕を着たら、君にも見つけてもらえないだろう。』
君が見ている僕は、理想を着ている僕だから。
その他
公開:21/05/29 21:01
更新:21/05/31 13:40

真月。

ご覧いただき ありがとうございます。
よろしかったら読んでみてください。
作品の絵も自身で描いております。

コメントや☆など とてもありがたく思っております。ありがとうございます。
のほんとしたお話や癒しとなっていただけるようなお話を描けたらと思っております。

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