秒読家の意味

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Y県郊外に秒読家の屋敷はある。
ある伝統を一子相伝で江戸時代から今に至るまで引継いでいる名家だ。
敷地内の小屋、通称『秒読庵』にて執り行われる。
「あ九千九百九十万九百九十びよぉーう」
御年88歳の15代目当主、秒読平之進が独特の節回しで読む。
手の刻槌で秒を刻み十秒毎に読み上げる。
正確に刻むようになるまで十年はかかる妙技とされた。
「ついに1億を…あと4年弱か」次期当主の段之進は息子に語りかけた。
「ゼロになったらどうなるの?」
「交代の時間だ」父親は応えず素早く祖父と読み座を入れ替わった。
待機席に戻った祖父にも同じ質問をする。
「実は億切りの際読むように伝えられている巻物があるんじゃ」
古びた木箱から巻物を取り出し紐解く。
「えー意味無し事をやり続けた先 意味は生まれるのか 鶴千代公の命により開始す 初代松之進」

「あ九千九百九十万八百二十びよぉーう」
16代目の声がやけに響く。
その他
公開:21/05/29 15:11
更新:21/05/29 18:56

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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