百物語

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「じゃあ、俺も怖い話を一つ」
蝋燭の明かりだけが揺れる部屋で、一人の男が口を開いた。
「ニワトリ、いるだろ? 卵を産むやつ」
 どんな怖い話だろうと、集まった男女が息を止め、耳を澄ます。男は皆の顔を見渡して、
「いまのニワトリはな、人間がつくりだした品種なんだ。卵を産むように、改良に改良を重ねられた……」
 動物の霊の恨みか――皆の期待が高まる。すると男は、
「だから、あいつらは農協の配合エサを食べないと卵が産めないんだ。自然のエサじゃダメなんだ。ミミズや、青草じゃな。どうだ、怖い話だろう」

 そう言って、ふっと蝋燭の炎を吹き消した。それは一つの怪談が終わった合図だったが、皆は釈然としない気持ちで互いに顔を見合わせた。

 配合エサじゃないと卵を産まないニワトリ――それはよく考えれば怖い話ではある。けれど、何もこの場でする話じゃなかったんじゃないか、というのが、皆の共通した見解だった。
ホラー
公開:21/05/30 13:00
ホラー 怪談 コメディ

黒澤伊織( 日本 )

黒澤伊織といいます。2人組で小説を書いています。ショートショートは好きで、よく書いていますので投稿していこうと思います。ちょっと皮肉の効いた話とか、ダークめの話、また逆にお笑い系の話とかを作ります。よろしくお願いします!

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