鑑鏡

19
13

摩訶不思議な珍品に出会えると評判の雑貨店を訪れた。
店内には、年代物の骨董品が数多く置かれていたが、すぐに燦然と輝く神鏡のような一枚の鏡に目が行った。
すると、鷲鼻が特徴的な店主らしき老婆が話しかけてきた。
「お客さん、お目が高いね。この鏡は、ただの鏡ではないよ。『かんきょう』と呼んで鑑を映し出す鏡だよ」
「鏡を映し出す鏡?」
「いや、映し出すのは、鏡ではなくて鑑さ。鑑は、模範や手本を指す。お客さんは、『人間の鑑』っていう言葉は知っているかい。立派な人という意味さ。また、大ヒットした映画やドラマ、流行歌を『時代を映す鑑』っていったりする。鑑鏡は、鑑になる人や物を映し出す鏡なのさ」
早速、鑑鏡の前に立ってみた。
「まったく何も映りませんが……」
「残念ながら、お客さんは、『人間の鑑』ではないようだね。でも、がっかりすることはないよ。そんな聖人君子のような素晴らしい人はめったにいないから」
その他
公開:21/05/30 07:16
珍品 雑貨店 年代物 骨董品 神鏡 模範 手本 聖人君子

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容