War Is Over (戦争は終った）

ネットで取り寄せた微生物キットにこんな能書き、この微生物は乳酸を生成し雑菌の増殖を防ぎます。さっそく菌らしき粉末を培養液に溶いて、ガラス板にのせ顕微鏡で観察した。菌の色は緑だったが、よくみると赤い菌もどこからか混入していた。すぐに菌同士のバトルが始まった。互いを食い合い、数が半分になったとき、両者が増殖を開始した。視野の半分が赤、もう半分が緑となり、その境目を前線として押し合いへし合いになった。ときとして前線が鶴翼の陣形になったり、それを方円でうけたりでなかなか戦術的だった。さらに増殖。今度は前線が膠着し、それぞれの領土で乳酸プールが生成が始まった。最終兵器だった。それからは、領土と乳酸プールは大きくなるが、前線はまるで動かない冷戦状態になった。乳酸も使われる気配なく、少しイライラしてきたときに、階下で夕食の声がした。ぼくはガラス板を摘まむとゴミ箱に捨てた。戦争は見えざる神の手で終わった。