いっちゅうひ

うちの弟は、ときおり奇妙なことを口走る。しかもテレビでニュースを見ているときに限ってだ。
「いっちゅうひ」「いっちゅうひ」
画面にはいかにも悪そうな容疑者が映っている。
その口癖は何よ、と私が問うと、弟はニコニコしながら
「ぼくはもんねだから」
とことなげもなく言う。
また弟がニュースを見ている。どうやら大臣の汚職事件のようだ。
「悪いひとね」と私が言うと、弟は「そうだね」と答えてから、いつもの口癖を繰り返す。
「いっちゅうーひ」
そのとき、テレビに緊急速報が流れ、くだんの大臣が急死したことが告げられた。
私は気が付いた。
『死』という漢字を分解すると「一夕ヒ」、つまり「いっちゅうひ」になる。同じく『闇』を分解すると「門音」、つまり「もんね」となる。
弟の正体は闇だ。人間ではない。
「お姉ちゃん気が付いちゃった？　正体がバレると困るんだよなあ」
弟が私に向かって宣告する。
「いっちゅうひ」