サタンハンド

難病に侵された息子を救う為、私は病院に掛け合った。かの有名な、ゴッドハンドと呼ばれる医師を紹介してくれと。だが院長の反応は冷たい。
一般市民の、何の才能も持たない子ども。救う価値はあるのか？報酬は払えるのか？
突き付けられる現実に私は崩れ落ちそうになった。
「息子さんの手術。私がやりましょう」
声をかけてきたのはゴッドハンドとは真逆の悪名高き医師、サタンハンドと呼ばれる男だった。
誰がお前みたいな奴に…
「では、見殺しにしますか？」
その指摘に私は突き付けた指を下ろした。藁にも縋る思いでサタンハンドに息子を託した。
医師は悪魔のような笑みを浮かべる。
「大丈夫です。私はサタンハンド。息子さんを天国へなんて連れて行かせません。息子さんを一般市民という生き地獄へと連れ戻してみせます」

息子は助かり、今年３０を迎えた。
何の取り柄もない息子は毎日辛い辛いと言いながら、家族を養う為に働いている。