ラストシーン

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 俺は子どもの頃好きな絵本があった。俺はそれを何回も繰り返し読んでいた。大人になったいま、なぜかその内容はほとんど思い出せない。たしかラストで誰かが死ぬ話だ。タイトルも作者も思い出せない。あの本はどこへいったんだろう。


 休日、俺は家の近所の商店街をほっつき歩いていた。ちいさな古書店。入り口に通りに面して本棚がある。そこには様々な色褪せた文庫本や劣化した雑誌。絵本も何冊かある。あ、あの絵本だ。俺は手にとりぱらぱらと眺めた。ああ、悪魔が出てくる話なんだっけ。森のなかでひとりで棲んでいる悪魔。そのなかで白いうさぎと出逢う。ワルツを踊ったり手料理を食べたり。でも最後は誰かが死ぬんだった。悪魔なのか、うさぎなのか。俺は絵本を買おうか、とも思ったがちょっと考えて最後まで読まずに棚へ戻した。ラストシーンは見えないからこそ面白いのかもしれない、なんてことを考えながら店を後にした。
その他
公開:21/05/24 16:22

千億アルマ( Tokyo, Japan )

ショートショートは、短い小説ではなく、読解可能性を最小単位へ圧縮した記録媒体である。本アーカイブは作品を保存することを目的としない。保存されるのは、読者との接触によって意味が生成・変容する条件そのものである。ジャンルは分類ではなく読解の副産物であり、一篇はSFにも日常にも寓話にもなり得る。物語とは完成された構造ではなく、読むという行為のたびに更新される暫定的な現象である。ゆえに作者は創作者ではなく観測者であり、アーカイブとは物語の集積ではなく、物語が発生し続ける可能性を保持するための実験的装置として位置づけられる。長すぎるだろ、これ。

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