履物

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『そのように思えない。ですが…』『私が頑固なのでしょう』『このようなことでは身勝手なだけ。周囲と足並みを揃えないと…』

『あぁ…何だか、足が重い…』


「お嬢さん。そちらの履物、同調ではないかい」
端正な声に身を振り向けると、殿方が一足の草履を手にかけよってきた。
「ここ、藍のいろが微かに異なっておるでしょう。お嬢さんの履物はこちらでは」
その方は、手にしたそれにつづき私の履いてきてしまったという草履に目配せをした。気づかぬうちに履き違えておったよう。
「どうぞ」「ありがとうございます」
持ってきていただいた自身の草履を履く。

「お嬢さん。あなた次第で装いは如何ようにも変化する。同調と協調を履き違えぬよう」

草履から面を上げると、その方はもう一足の草履を手にいつとはなしに遠くにおった。
見据えた先は今しがたと比べそらがおおらか。
私の向ける足は、どこか軽やかであった。
その他
公開:21/05/26 17:54

真月。

ご覧いただき ありがとうございます。
よろしかったら読んでみてください。
作品の絵も自身で描いております。

コメントや☆など とてもありがたく思っております。ありがとうございます。
のほんとしたお話や癒しとなっていただけるようなお話を描けたらと思っております。

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