バンビの横顔

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一月の夕方、オリオンに見送られて出発した地球号は、三月の未明には、天の川の下流にさしかかっていた。河原には、星雲の藪が繁り、夥しい数の星屑がさらさらと流れていた。地球号は宇宙風に漂いながら静かに天の川を遡行していた。それをまるで惜しむかのように、藪の陰からバンビが顔をだした。可愛いなと思ったとき、手前で巨大なサソリが、身を低くして身構えているのが見えた。その赤い心臓が威嚇で激しく動悸していた。サソリの視線には半身半獣の怪物が、矢をつがえてバンビに向かって今まさに放とうとしていた。危ないと叫んだ瞬間、さそりの尾が鞭のようにしなり、怪物を刺した。怪物は声もなく絶叫し、矢はどこかに飛んでいってしまった。7月になった。地球号は、大鷲の背中にのって天の川を横切っていた。そのはるかな高みから天の川をのぞき込んだとき、巨大な矢が誰も手の触れることのできない川底に沈んでいるのが見えた。銀河に平和が戻った。
SF
公開:21/05/26 05:47

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