オカリナの男

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 ほっこりと手になじむ曲線の温もり。夕暮れの空と原っぱのあまりの広さ、巨大さに押しつぶされそうになったり、自分が霧のように広がってなくなってしまいそうな寂しさに襲われたときだって、目を閉じてその音色に耳を傾ければ、そこはもう、たちどころに巣ごもり中の四畳半みたいに感じられる。
 オカリナ。
 空と大地の隅々までも震わせるような、それでいて体にすっぽり収まって、まるで母に抱かれているときみたいに包みこまれているような、そんな不思議な響きの楽器だと思いませんか?
 僕はオカリナ。
 もし君が、広い世界で、もしくは、閉鎖的な人間関係で、苦しんでいるのならば、どうか僕を吹いてください。そして、僕のいろいろなところにある穴を押さえたり、指を出し入れしてみたりしてください。
 そうすれば君は僕の発するいろいろな音で、きっと癒されることでしょう。どうか、抱きしめて下さい。
 僕はオカリナ。僕はオカリナ。
その他
公開:21/05/22 08:42
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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