思いつくまで

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山頂の夜がコトンコトンと明けてゆく午前4時。今夜の僕は少し働きすぎた。山小屋のベランダに立ってぬるい缶ビールを開ける。めこっ。ちゅうちゅう。当たり前の音が禁止された世界で、僕は缶ビールをペンチで開けてストローで飲む。ぷしゅ。グビグビ。なんて音は出せない。
ちゅうちゅうちゅう。あぁ。戦争が憎い。
洗いざらしのデニムの空にマッシュポテトみたいな雲がひとつあって、みるみる色と形を変えるその雲を面白がるうちに、周辺の朝が力強く立ち上がってゆく。
見下ろす山の尾根道を、巨大な亀を連結した甲羅通勤快速列車が、スーツ姿の山猿たちを運んでゆくのが見える。
ふぁ〜あ。僕がありきたりなあくびをすると、山猿たちは一斉にスーツを脱ぎ、山頂の僕めがけて完熟のびわを投げてきた。
山小屋のガラスが割れ、柱が折れ、屋根を突き破り、それでも僕はありきたりじゃないあくびが思いつかなくて、完熟のびわに撃たれているしかなかった。
公開:21/05/24 12:47
更新:21/05/24 12:55

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