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思わず息を飲んだ。
海面にいくつもの目玉がゆらゆらと浮かんでいたからだ。
「おっさん、あれ何?」
俺は網を引き上げようとしている漁師のおっさんに尋ねた。
「人間の目ん玉。見たままだよ」
おっさんは海中から網を手繰り寄せながら続けた。
「この辺では肉食の魚が住みついていることもあって、昔から海葬が行われていてね。死んだ人間は海に投げ込まれて食われることになっている。ただ食べるのは肉だけ。目玉は吐き出されて、ああやって海に浮かんでるんだ。残酷に思うかもしれないが、これは漁の安全を願う儀式。死人の魂が俺たちを守ってくれる。よし、今回も大漁だ」
海から引き上げられた網の中では、人間の顔そっくりな魚がピチピチと床を叩いていた。
公開:21/05/20 23:26
更新:21/05/20 23:31

田坂惇一

ショートショートに魅入られて自分でも書いてみようと挑戦しています。
悪口でもちょっとした感想でも、コメントいただけると嬉しいです。

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