事実は小説より奇なり省

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わたしの勤め先は、『事実は小説より奇なり省』
れっきとしたお役所である。
世の中のあらゆる書き物をチェックし、事実のほうが劣っていれば
即座に対応するのが仕事だ。

「作家の遠端先生が、八王子に宇宙人が2体現れ、付近がパニックだと記述を」
「よし、では今すぐ八王子に宇宙人を4体、手配するんだ」

こんな調子である。
忙しいが、やりがいのある職場だ。

しかしある日、同僚が奇妙なことを言い出した。

「事実は小説より奇なり、とすると、小説より奇ならぬものは
 事実ではない、ということでしょうか……
 いえ、そもそも小説自体、事実に内包されうるべきものですから……」

彼は悩みどおし、ついには廃人となってしまった。
哀れだが、この職場には合っていなかった、ということだ。

こうして毎年ひとりは、事実と小説のはざまに堕ちていってしまう。
これも所詮小説なのだから、そんなこと考えなければ良いのに。
ファンタジー
公開:21/05/20 22:22
更新:21/05/20 22:45

よこたちかこ( 東京都 )

小学校5年生から、星新一が好きです。
頑張ってちょこちょこ、物語を書きたい。

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