地磁気の影響

Ｍ君は中性子線研究所で学ぶ留学生。趣味もなく真面目なＭ君を同じ研究室の私は映画やコンサートに誘ったりした。彼の興味は地磁気。携帯電話は持たず測定器を携行して地磁気測定に余念がない。携帯の電磁波は人体に有害で地磁気の影響が重要だと言う。学問的にあまり重視されない研究分野である。だがＭ君は磁気が与える力を信じていた。
休日に彼を海辺のドライブに誘ったときのこと。浜辺でＭ君は岩礁を見ていた。岩に砕ける波を見るうちにＭ君はわかった！と声をあげた。彼は息せき切って話した。磁気とは波であるが水のような粒子になって人間へ影響を与える。岩を砕く波のように。
Ｍ君は地磁気の研究を希望したが、教授は中性子線のテーマをすすめた。そのうち留学期間が過ぎてＭ君は母国に帰った。後に渡米したと聞いたがいつか彼のことを忘れた。十年が過ぎた頃、ノーベル賞がＭ君に与えられた。授賞対象は「地磁気が与える精神への影響」だった。