臨床結晶抽出師

カウンセリングルームに「失恋で辛い気持ちを忘れたい」と話す生徒が現れたので、さりげなく提案してみた。

「よかったら、その気持ちを結晶にして取り出してあげましょうか」

臨床結晶抽出師の資格技術は、世間的にはあまり知られていない。感情を結晶化し取り去る技術で、心理職の間でも賛否が分かれるものだ。ただし、実際のところ需要は高かった。

その生徒が失恋の記憶を結晶化してからというもの、日に数人ずつ記憶の結晶化を求める生徒が訪ねてくるようになった。困ったことに生徒たちは「もういらない」と取り出した結晶を置いていく。大半は医療廃棄物として処理するが、中にはお気に入りの結晶もある。私は、それらをガラスの小瓶にしまい大切に持ち帰った。

眠る前のひと時、琥珀色のグラスを傾けながら、その結晶を齧る。薄青い「切ない」思いの結晶。甘酸っぱい切なさが胸に広がり、もう、忘れてしまったあの頃がよみがえる。