ご了承下さい

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「注意事項をお読みになり契約書をご記入下さいませ」
担当者から契約書を受けとる。
「分厚いですね」
「先週もご説明しました通り、健康上や保障の為の細かな確認が必要となります。その点はご了承下さい」
担当者は少しも表情を変えずに言い、時間を気にする素振りを見せた。
「まもなく午前の受付が終了致します。午後は二時からになりますのでご了承下さい」
「は? 契約書はどうするんだ」
夫は信じられないという顔で担当者を見たが、無駄のようだった。
「充電中になっちゃったわ」
「受付がAIなのに何でこっちは手書きなんだよ」
古びたバインダーがギイと嫌な音を出した。
「ーーご了承下さい」
十パーセント程充電された担当者が寝言の様に呟いた。
「やっと順番が来たのよ」
二人は宇宙船の中から美しい青い星を見下ろした。
「先祖はどんな思いで故郷の星を出たんだろうな」
ゆっくりと宇宙船は軌道に乗り始める。
その他
公開:21/05/19 20:18
契約書あるあるですよね? 実はSF

射谷 友里

射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。

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