霧多布

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机を整理していたら抽斗の奥から一枚の写真が出てきた。海を望む丘、背の高い草がまっすぐに生えているばかりで人も建物もみえなくて遠くに小さな船が浮いている。写真を裏返すと「霧多布という海沿いの漁師町」とペンで書いてある。間違いなく私の筆跡だが記憶がない。キリタップ。北海道、根室に近い町のようだ。膝を軽く叩いて思い出そうとしたが、記憶はない。写真はまた抽斗の奥に残しておいた。
その晩に夢をみた。
私は五歳の幼児で母に連れられて映画館に入った。平日の午前九時だった。小さな映画館のなかはすでに暗い。母と並んで一番後ろの中央の席に坐る。頭のすぐ後ろの壁の穴から光が投射された。光の筋がまっすぐに伸びる。埃がきらきらと散って浮いた。スクリーンに画面が広がった。海辺の景色に荒々しい波。波頭が岩礁にあたって砕ける。砕けるシーンが何度も繰り返される。みているうちに眠くなると母が私の肩を軽く叩いた。
その他
公開:21/05/17 16:35

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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