セバスチャン

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目が覚めたとき、いつも私のひざ裏で眠る夫の姿がなかった。この家は少し傾いているからまた転がり落ちたのかなと思いつつ、私はまた眠りの中へ。本格的に目が覚めた午後、やはりひざ裏に夫の姿はなく、家の中に気配を感じない。
「セバスチャン!」
チャン、チャン、チャン。夫の名を叫んでも私の声がこだまするだけ。
トイレを済ませた私は鼻や鎖骨や右足の親指を洗い、たこ焼きの準備をはじめた。気がかりなことがあるときは粉もんに限る。大好きな妹の言葉だ。少しばかり食欲がなくてもソースをかければ大丈夫。そういうもの。たくましく生きる妹が今日も健やかに過ごせるように、私は妹が潜入しているウラジオストクの方角にアイーンをひとつ送る。
タコ焼きを焼きながら、私は台所の植木鉢にいるはずのなんらかの幼虫に水をあげる。
そして気がついたんだ。テーブルの上にサバの缶詰が開いていて、そばに夫のスリッパがそろえて残されていることに。
公開:21/05/18 14:48
更新:21/05/19 12:13

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