はじまり

　子供の泣いている声が聞こえる。子供の泣き声というのは、世界が終わるかのように聞こえる。
　買い物に出かけた先で、駄々をこねて泣く子供。公園で転んで泣く子供。幼稚園に向かうバスに乗るのが嫌で泣く子供。どれも世界の終わりに近いのかもしれない。
　しかし、今のうちにいっぱい泣いておく方がいい。大きくなったら泣けなくなることの方が多くなる。仕事、人間関係、病気、別れ、不安。泣いている暇なんてない。
　また子供の泣き声が聞こえる。そんなに泣かないでおくれ。そんなに世界は残酷ではないんだ。
「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」
　看護士が赤ちゃんを保育器に入れた。
　赤ちゃんの顔をそっと見てみる。
　まだ、泣く声が聞こえる。
　とてもかわいい子だ。それよりも僕、おなかが空いたよ。
　看護士が隣にいた僕を抱き上げた。
　僕はまだ、泣きやみ方を知らない･･････。