気のよわい標識

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穏やかな山あいの村はずれ、いくらか大きな町との道辻に
木でできた細い標識がありました。
なんの文字もない矢印だけの標識は、少しの風で頼りなく
柳のように揺れ動いて見えるものでしたが
ほんとうは、とっても気のよわい標識だったのです。
 
標識は、自分が嫌われたくないばかりに
大抵は、彼を見やる人が行きたそうな方向を、くるりと指してやるのでした。
もしも山賊や、嫌味なやつの気配を感じれば
いちはやくにそれを察知して、ぱすんと地中に潜ってしまいました。

たまに、標識と同じくらい気のよわい人が来ようものなら
標識と人は互いに悩みあってしまいました。
 
次に通りかかった人に救われ、結婚をしたり
師弟関係を結んだ人たちもありましたが
もちろん、その逆のことも少なからずあったようです。

そんなわけで、気のよわい標識のもとには
穏やかな風景に似合わないされこうべが、いくつか重なっているのだそうです。
ファンタジー
公開:21/05/15 23:19
更新:21/05/15 23:22

よこたちかこ( 東京都 )

小学校5年生から、星新一が好きです。
頑張ってちょこちょこ、物語を書きたい。

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