通行手形

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「本日亡くなられたA様ですね。まずこちらで手形を取り、暫くお待ち下さい」
長い人生を終え、あの世へとやってきた私はまるで市役所のような場所にいた。
「A様、パスポートが出来ましたので受付までお願いします」
あの世にパスポート?てか、顔写真じゃなくて手形?
私の質問に職員は苦笑いを浮かべる。
「上司が江戸時代の人で考えが古いんです。写真だと”魂が抜き取られる!”なんて言うんですよ。ここに来られる方はもう死んでいるのに」
こっそり教えてくれた職員に私も苦笑いを浮かべる。頭の固い老人はどの職場にもいるものだ。

貰ったパスポートを手にゲートへと向かう。
ゲートにいた職員はパスポートの手形を見て顔を顰めた。
「ふむ…薄いな…」
見れば私の手形は確かに朱肉が薄いように見えた。取り直した方がいいだろうか?
「いいや、結構。薄いのは悪事に手を染めていない証拠です。ようこそ天国へ。良き来世をお迎え下さい」
公開:21/05/16 20:25

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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