たまには休暇を

6
4

 密集するビルの群れは徐々に密度を減じ、トタン屋根、瓦屋根、ソーラーパネルが乗った屋根など、古い住宅と新しい住宅がモザイク状に混ざる街並みへと変わっていく。

 私は降りるべき駅で降りなかった。それが意図的であったのか、うっかりしたのか、実のところ定かではない。

「稟議書を作成しただけで先方への依頼は忘れたそうじゃないか。またその手のミスか」

「あなた今日何の日か分かる?そう、毎度それね」

 忘れやすい性格だと私も思う。でも今はそんな日常すら忘れてしまいたい。
 トンネルを抜ける度に増していく緑。眩しい。田畑が広がり始める。
 長いトンネルを抜けると雲ひとつない青空の下に一面ブドウ畑が広がった。絶景。これぞ非日常。

「ん、忘れものか?」
 ゆっくりと近づいてきた車掌に私は抱えられた。どうやら旅はここまで。よい休暇だった。
 あとはうっかり者の持ち主が探してくれているといいのだが…。
その他
公開:21/05/16 10:21

おおつき太郎

面白い文章が書けるように練習しています。
日々の生活の中で考えたこと、思いついたことを題材にしてあれこれ書いています。


Twitterはじめました。
https://twitter.com/otaro_twi
 

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容