食通

ノミオが一人、カウンターの片隅で注文した料理を待っていた時のことだった。中肉中背のあの男が店に入ってきた。「大将、いつものやつね」といいながら、ノミオの席を２つ開けたほぼ中央のカウンター席に彼は腰かけた。そして、壁に掲げてあるメニュー札を一通り目で追うと、「でもなんだな、最近の若い奴は食べ方をしらん」と、誰に言うともなく、ノミオの耳に届くか届かないか、その絶妙な音量で喋り出した。続けて彼は「大将、今日のお勧めは？」と大きな声で厨房に向かって話しかけた。しばし沈黙の時が流れた。バツが悪くなったのか、彼はまた喋りだした。「やっぱり春はサワラかな。魚へんに春と書くし」と言った時だった。厨房から若い男が出てきた。すると奴は彼に「今日は、大将のお任せにするわ」と言った。奴に“大将”呼ばわりされていた、そのアジア系の好青年は、困惑した顔でこう言った。
「牛丼（並）でいいですか。」
「はい、つゆだくで」