仕立て屋

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イタリア製のオーダーメイドスーツの着心地は最高だが、気分は最低だった。水と同じ。権力は高所から低所に落ちる。世の中は不公平だ。首から下げた巻尺の左右均等を測りながら男に告げた。

「首を吊るか、高飛びするか、選べ。仕立て屋には下手に出ておけよ。」

ホテルのスイート、政治家秘書は頭上の首縄より小刻みに体を震わせた。

「家族の安全は保証する。」
泣き崩れる秘書の背広は安物だが、ネクタイは妻の趣味だろう。悪くなかった。巻尺の長さが丁度整い、泣き声が止んだ。



街の中華屋、朝刊で政治家秘書の自殺が報じられていた。着服、裏金、汚職のオンパレード。秘書など人身御供にすぎない。つまらない仕事だ。が、それは俺も同じ。罪ない人間を犯人に仕立てるケチな稼業。失敗すればあの方に消される運命。

「誰を私に仕立てた?」

隣の元政治家秘書に返事はせず、麺を啜る。出汁の仕立てがなってないぼやけた味だった。
その他
公開:21/05/12 19:36
裏稼業図鑑②

空津 歩( 東京在住 )

空津 歩です。

新シリーズ「人喰い病院」はじまりました。

荷物
破顔
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長老
抗争
皇帝
報道

マイペースに描いていきたいです!

SSG1周年!

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