考古学者たち

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友人の考古学者の話。
例年の考古学会初日、発表を終えると常連の学者たち十数名は街に繰り出した。居酒屋、スナック、バー。最後の店を出て夜道をぞろぞろと歩く。ひっそりとした小路で一人が電柱の下にたまっている液体を見つけた。犬の尿でも酔客の吐瀉物でもない。考古学者たちは液だまりの議論を始めた。
「形は熊のようである」
「液体化学分析を要する」
「地勢分析が先だ」
「地方の伝承が必要」
「地磁気の影響は?」
議論は続く。学会長が「何をごちゃごちゃ言っとるのかね。感じるのだ」と液だまりに足を突っ込む。あっと一同が見るまに学会長の足はずぶずぶと液に浸かる。脚、腰、首も沈んでしまった。みんな大変だと液だまりに踏み込んだが硬い路面につるつると足が滑るばかり。学会長はどこにもいない。悪い夢を見たようにみんな散り散りに帰ってしまった。
翌朝一番の発表会場に学会長は何もなかったような顔で座長席にいたそうである。
その他
公開:21/05/10 17:03

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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