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金曜日。うちの会社の唯一良いところは、土日が必ず休みになる。明日から2日間は、私は私をやらない。誰かのフリをするのだ。
妻と娘は、休日に家に居ない方がマシなのだろう。何も言ってこない。
土曜日。適当に選んだ駅で降りる。古着屋で買ったオンボロの服。商店街のカーブミラーに映る私はまるでここの住民のように思えた。駅の周りをうろうろ歩いて、夜になり地元民の面でスナックに入った。
ママが言った。「しげちゃん、久しぶりじゃない!帰ってきてたの?」
「え?」
私は私に戻りそうになった。ママが私を誰かと勘違いしている。そのまましげちゃんのフリを続け一杯だけ飲んで会計をした。
「あら、まだその財布使ってくれてるんだ、嬉しいね」
ママの言葉に返さず店を出た。私に似ていたのは誰だったのだ?今日は帰ることにした。
玄関の前に立つと中から楽しい話し声が聞こえた。
扉を開いた。家族と団欒を取っている、あれは私だ。
SF
公開:21/05/09 19:09

ニュークレープ ・ナターシャ( にっほん )

浅井企画所属。
ニュークレープ というトリオのナターシャと言います。ロシアの女ではなく日本の男です。
主にコントを作ってます。
いい脳の運動になりそうなので、ショートショート始めようと思います。
よければフォローお願いします。
ツイッターアカウント@newcrepe_nata

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